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2007年5月29日 (火)

MYUTA事件判決文を読む

一昨日のエントリー「オンラインストレージサービスが著作権侵害?」で取り上げた、音楽データの携帯電話向けオンラインストレージサービスが著作権侵害とされた「MYUTA事件」の判決文が公開されましたので、早速、一読してみました。

著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件(平成18年(ワ)10166号、平成19年5月25日東京地裁判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070528141551.pdf

「MYUTA事件」で最大の論点となっている、「音楽データをアップロードしたユーザーが、自分の携帯電話にその音楽データをダウンロードする行為は、ダウンロードできるのがアップロードしたユーザーだけであるのに、公衆送信権侵害にあたるのか」について、原告であるイメージシティ株式会社は、次のように主張しています。

ユーザが本件サーバに蔵置した音源データのファイルには,当該ユーザしかアクセスできず,1対1の対応関係であって,しかも常に同一人に帰するから,ユーザが専ら自分自身に向けて行っている自己宛の純粋に私的な情報伝達であり,公衆送信権侵害に当たらない

上記のよう原告の主張に対し、判決は、まず、音楽データをダウンロードさせているのはユーザーではなく原告であると認定し、その認定に基づき、「原告がユーザーに音楽データをダウンロードさせる行為」は自動公衆送信に該当すると認定しています。以下、それぞれの該当箇所を抜き出してみます。

本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2ファイル(筆者注:携帯電話向けにコンバートされた音楽ファイルのこと)の送信(ダウンロード)について,送信行為の主体が誰かにつき検討すると,…中略…① 原告の提供しようとする本件サービス…中略…において,音源データの送信行為が不可避的であって,本件サーバから3G2ファイルを送信する行為は,本件サービスにおいて不可欠の最終的なプロセスと位置付けられること,② 本件サービスにおいて,3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果たす本件サーバは,原告がこれを所有し,その支配下に設置して管理してきたこと,③ …中略…ユーザは,本件サーバにどの楽曲をダウンロードするか等の操作の端緒となる関与を行うものではあるが,本件サーバによる音源データの送信に係る仕様や条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その送信行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照らせば,本件サーバによる3G2ファイルの送信行為の主体は,原告というべきであり,ユーザということはできない。

本件サービスは,前記1(1)認定のとおり,インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話(ただし,当面はau WIN端末のみ)を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照),ユーザは,その意味において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。よって,本件サーバからユーザの携帯電話に向けての音源データの3G2ファイルの送信は,公衆たるユーザからの求めに応じ,ユーザによって直接受信されることを目的として自動的に行われるものであり,自動公衆送信(同法2条1項9号の4)ということができる。

以上の論旨をまとめると、判決の論理は次のようになると考えます。

  1. 「MYUTA」の基本システムは、原告が所有し、管理・運営している。
  2. ユーザーによる音楽データの携帯電話へのダウンロードは、あくまで自動化された「MYUTA」の一プロセスに過ぎない。
  3. とすれば、ユーザーの携帯電話へのダウンロードは、ユーザーによってではなく、「MYUTA」の運営主体である原告によってなされているものであると考えるべきである。
  4. ところで、公衆送信権における「公衆」とは、「MYUTA」の運営主体である原告の側から見て判断すべきである。
  5. この点、原告は、登録したユーザーであれば誰に対しても「MYUTA」を利用させていた。
  6. すなわち、原告は、「MYUTA」を全体的に見ると、不特定多数のユーザーに対し、音楽データをダウンロードさせている。
  7. したがって、原告は、公衆送信権侵害の主体となる。

ポイントは、(1)公衆送信権とは誰に対して送信することを指すのか、(2)サービスの運営主体は誰なのか、ということだと思います。

第一に、公衆送信権の「公衆」について、判決は、原告と個々のユーザーとの一対一の関係ではなく、原告とユーザー全体との一対不特定多数の関係で判断すべきであると述べています。原告の主張を完全に否定していますね。このような論理に類似するものとして、刑法175条のわいせつ物公然陳列罪の「公然」の考え方があります。たとえば、一度に一人ずつしか見えないような仕掛けが施されたわいせつ画像であっても、交代しながら不特定多数の人がその画像を見れるのであれば、わいせつ物を「公然と」陳列したと考えるのです。つまり、個々の関係では一対一であるが、全体で見ると不特定多数となっている場合、「公衆」を相手にしていると考えられるわけです。

第二に、判決は、システムの所有者、管理・運営主体は誰なのかという点を、かなり重視しているように考えます。過去の著作権がらみの判例を見ると、国内のテレビ放送を海外でも観られるようにするサービスである点が共通する「録画ネット」事件と「まねきTV」事件において、「録画ネット」事件では、サービス提供者が著作権侵害と認定されたのに対し、「まねきTV」事件では、サービス提供者の著作権侵害が認定されなかったことの差異が参考になると思います。

その差異とはすなわち、「録画ネット」事件においては、サービス提供者が全ての機材を所有し、サービスの管理・運営を行なっていました。一方、「まねきTV」事件においては、ユーザーが自ら機材を購入していたのでした。

この判例の判断基準を一般化すると、ユーザーが、自分で用意した機材を使って、自分自身に対してデータを送信している場合は、公衆送信権の侵害にはならないと考えられます。一方、ユーザーが、第三者の用意した機材を使って、自分自身に対してデータを送信している場合は、サービス提供者が公衆送信権の侵害とみなされると考えられます。「MYUTA」の場合でも、自分の費用でサーバーを買ってきて、携帯電話に音楽データを送っていれば、著作権侵害とは認定されなかったかもしれません。

「録画ネット」事件(平成17年11月15日知財高裁決定)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/842BD42DCC4020FC492570C100253DFF.pdf

「まねきTV」事件(平成18年12月22日知財高裁決定)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222160510.pdf

以上のように、「MYUTA事件」判決は、過去の判例によって形成された判断基準を踏襲したものであり、過去の判例の延長線上に位置するものであると言えます。また、判決の論旨をきちんと読むと、決してインターネットの技術も知らずに意味不明なことを言っているわけではないとも思います。

とはいえ、この判決がどうにも腑に落ちないのは、アップロードした人しかダウンロードできないのに「公衆送信」したとされるのが日本語的に理解しづらいことと、やはり何と言っても、この判決の理論に従えば、オンラインストレージやWebメールといったインターネット上の定番となりつつあるサービスが著作権法的にブラックなものとされてしまう危険性があることに対する危惧感であると考えます。

「サービスの機材を誰が準備したか」という判例の判断基準で考えると、ほぼ全てのオンラインストレージサービスは企業が準備しているものであると考えられますから、サービスを運営している企業は著作権侵害で訴えられるリスクを常に抱えてしまうことになります。それでは、誰もオンラインストレージサービスを運営しようとは思わなくなるでしょう。そうやってインターネットの利便性が少しずつ失われていくわけです。果たして、それで良いのでしょうか?

「MYUTA事件」が今後はどういった展開を見せていくのかはわかりませんが、もし控訴審があるとすれば、過去の判例との理論的な整合性だけでなく、インターネットの将来性についても熟慮していただいたうえで、権利者だけでなく一般人も含むインターネットを利用する全ての者にとって最善の結果をもたらすような判断を下していただきたいと考えています。

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