能を観に行く
今日は国立能楽堂で開催された能と狂言の「普及公演」を観に行ってきました。日本の古典芸能では、歌舞伎や落語は観たことがありましたが、能と狂言を観るのはこれが初めてです。初体験の感想としては、これまでの人生の中で漠然と抱いていた「日本の伝統」とでもいうべきものがまさにそのまま表現されているなという印象を持ちました。普及公演というだけあって、詳細でわかりやすい解説付でしたので、気軽に楽しむことができたと思います。
公演情報 詳細|日本芸術文化振興会|普及公演 横座 清経
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1802.html
国立能楽堂に入るのも今回が初めてですが、最近建て替えられたのでしょうか、かなり新しくて綺麗な建物でした。全ての席に台詞の字幕が表示される液晶ディスプレイが付いているので、何を言っているかわからないということもありません。ただ、今日の公演では、字幕表示システムにWindowsを使っているみたいで、狂言の時にエラー画面が出て、そのまま表示されなくなってしまったので残念でした。とはいえ、狂言の台詞は聞き取りやすく、字幕なしでも全く問題なかったです。
普及公演は解説付だということで幅広い層に人気があるらしく、チケットも発売初日の午前中で売り切れてしまうそうです。今日も座席はほぼ満席でした。大半のお客さんは中高年の方々でしたが、どこかの女子校が一学年ほど観に来ていたのがちょっと意外でした。自分が高校生だった頃を思い出すと、高校の多目的ホールで演劇やらダンスやらオーケストラやらジャズやら色々なイベントをやっていて、それをよく観に行ったものです。今ではそのほとんどは忘れてしまいましたが、うっすらと覚えていることもあって、そういうことがちょっとしたきっかけで役に立ったりすることもあります。そう考えると、やはり、10代の頃に古典芸能に触れておくことは有益だと思いますね。
さて、普及公演は、「清経」の解説から始まりました。解説者は佐伯真一さんという方で、パンフレットには肩書が何も書いていなかったのでその場ではわからなかったのですが、家に帰ってからインターネットで検索してみると、平家物語関係の書籍を執筆したりしている大学教授のようで、「清経」の解説をするのにピッタリの方のようです。佐伯さんの解説は、平清経という人物の紹介から始まって、平家物語における平清経の描写のされ方と能における描かれ方の違い、さらには「清経」が内包する男女の価値観の相違という普遍的なテーマの解題まで非常に多岐に渡り、かつユーモアを交えてわかりやすく、素晴らしいものでした。正直なところ、この解説の方が「清経」よりも面白かったです(笑)。
次に、狂言の「横座」が演じられました。「横座」のあらすじは、以下のとおりです。
耕作人が博労(ばくろう:牛馬の売買をする人)に売りつけるために引いてきた牛は、その博労から盗まれたものであった。博労は、「その牛は自分のものだ。その証拠に、その牛は「横座」という名前で、名前を呼べば返事をする。だから、その牛を返せ」と言う。耕作人は、名前を呼んでも返事をしなければ、牛を返さないだけでなく、博労を自分の家来にすると言う。博労は千回呼ばせてくれと言うが、耕作人は聞き入れない。五百回、百回と回数を下げて交渉していくが、結局、博労は三声まで呼ぶことができることになった。いざ名前を呼ぶ段になるが、一声目、二声目のときは博労が呼ぼうとすると耕作人が邪魔をして、そのせいか牛は返事をしない。最後の呼ぶ機会に、博労は絵に描いた牛でさえ懸命の祈りに応えて鳴いたという故事を牛に語って聞かせる。しかし、博労の話があまりに長くて詰まらないため、耕作人が寝入ってしまうばかりか、牛までも寝てしまう。ようやく話を終えた後、博労が最後に「横座」と呼ぶと、牛は「モゥ」と鳴く。博労に牛を取り戻されてしまった耕作人は、せめて牛を引いてきた綱だけでも返せというが、博労は聞き入れずに牛を引いて去っていく。それを負う耕作人。両者が退場して終わり。
こうやって文章で書くと味気ないですが、博労と耕作人の会話のテンポが非常に小気味よく、前提知識なしの初見でも十分に楽しむことができました。それにしても、演者の歩くときの腰運びの美しさには驚嘆しました。重心が安定しており、上下にぶれる無駄な動きがありません。合気道でも腰の使い方が重要になりますが、その参考になった気がします。
狂言の後20分ほどの休憩を挟んで、「清経」が演じられました。ただ、公演全体の構成としては、2時間30分しかない公演時間からすると、狂言を一番最初に持ってきて、それから解説が入って、その後に「清経」本番とするのが良いのではないかと思いました。解説の直後に観た方が「清経」も理解しやすかったように思います。
「清経」は演者の歩き方が非常にゆっくりしており、囃子と謡(うたい)も独特のリズムをしているので、最初のうちはハッキリ言ってかなり眠気を誘われてしまいました……。後半になると囃子と謡のテンポもあがり、舞も派手になるので非常に面白かったです。とはいえ、独特の発声法による台詞は、古語だということもあって耳から理解しにくく、事前の解説と字幕の表示がないと、どういう内容なのかサッパリわからなかっただろうと思います。話の主題も、平家物語に描かれているような来世を願う無常観が根底に流れているため、現代の日本人には素直に理解しにくいところがありました。以前にこのブログでもご紹介した能のマンガ『花よりも花の如く』を読んでいたため、多少の前提知識があるから理解しやすいんじゃないかなと高をくくっていましたが、甘かったです。解説で言われたような男女の価値観のすれ違いなどは読み取ることさえ困難でした。狂言と違い、流石に能は難解ですね……。とはいえ、一度観たくらいでは奥深い古典芸能の何を語れるわけでもありませんので、来月の普及公演も是非観に行ってみようと思っています。次は事前に演題の予習をしておこうと思います。
Rivastの朱夏日乗: 成田美名子『花よりも花の如く』
http://rivast.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_818b.html
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