赤坂真理『モテたい理由』読了
赤坂真理『モテたい理由』(講談社現代新書1921)を読了しました。普段の僕であれば、こういうタイトルの本はそもそも眼中にないのですが、会社の同期の女子に「強制的に」貸してもらいましたので、強制レンタルの意図が奈辺にあるのかと勘繰りながら読んでみました。ちなみに、僕は著者の赤坂真理については「小説家である」というくらいの知識しかなくて、その著書を読んだことはありません。
本書は大きく二つの部分に分かれていて(ページ数的には8対1くらいですが)、前半が『JJ』や『CanCam』等の女性向け雑誌から分析される「モテ」の分析、後半が自己のアメリカ留学体験等を通じた戦後日本に対する考察となっています。ただ、この二部制が功を奏しているとはとても思えなくて、前半ではそこそこ客観的に男女の「モテ」に対する検討をしているのですが、それが何の脈絡もなく後半の自分語りにつながるので、両者のギャップに戸惑ってしまいます。最終的に、後半の自分語りの知見が前半の「モテ」の分析に還元されているわけでもないですし、正直言って、後半の存在意義が不明確です。
とはいえ、前半の女性誌の分析は、『CanCam』なんぞ手に取ったことすらない僕にとってはなかなか新鮮で興味深かったです。女性誌を具体的に例示しながら恋愛資本主義と呼ばれるものの本質を洞察する読物としては、手軽でまとまっていると思います。ただ、洞察の端的な結論や「だからどうすれば良いのか」という具体的な解答が明示されているわけではなく、主観的な思い込みともとれる意見がダラダラと続いているだけなのがちょっと残念です……。僕なりに前半の内容をざっくりと要約すると、大体こんな感じです。
- 女性誌には、良い家柄のお嬢様で、自分の希望の職種について責任ある仕事を任されていて、ステキな彼もいて、結婚・出産もしてという女性としての最高の幸福を体現したようなファンタジーとしてのライフスタイルが展開されており、読者がそのようなライフスタイルを体現するための様々なファッションやノウハウが紹介されている。
- しかし、男性の側は、女性誌のファッションやノウハウに感化されることはほとんどない。むしろ、そのようなファッションやノウハウに価値を見出すのは、女性誌の読者が嫌悪するオタクである。
- オタクは恋愛資本主義が要求する果てしのない「モテ」へのコミットから「降りる自由」を行使した者たちであると言える。一方、女性誌の読者が恋愛資本主義にコミットせざるを得ないのは、女性の自立が進んできたとはいえ、まだまだ日本社会は男性中心社会であり、女性が生存するためには恋愛という「関係性」において勝利する必要があるからである。
- そのような意味で、女性誌の読者とオタクとは、あえて敷衍すれば、現代の女性と男性とは、ともに戦後日本社会の恋愛資本主義の一つの到達点である「モテ」という幻想に振り回されている被害者であると言える。
ところで、僕はいわゆる「モテ」のテクニックやノウハウにあまり興味が持てず、男女の恋愛というものにも消極的です。そのような態度の原因はどこにあるのだろうと自己分析してみると、大きな観点での自分の人生の目的を、自己の完成や人格の陶冶といったある意味でエゴイスティックなところにおいており、恋愛をその目的に至るためのいくつもある手段の一つとして捉えていないからだと思います。リルケから少し引用してみます。
愛することは決して、自らを開き、与え、第二の者と一体となることではありません(なぜなら、まだ浄化されていない者、未完成の者、まだ従属的な者の一体化など何になるでしょう?)、愛することは個々の人間にとって、自ら成熟すること、自らの内部で何ものかになること、世界になること、相手のために自ら世界となることへの崇高な機因であり、それぞれの人間に対する一つの大きな法外な要求であり、彼を選び取り広大なものへと招くある物です。(リルケ『若き詩人への手紙』)
僕はまだまだ未完成であり、もっと成熟した人間になりたいと願っています。そして、そのための手段は様々であって、何も恋愛だけが全てではないと思うのです。たとえば、僕が合気道を通じて得られた相手との間合いの計り方や、手品を通じて得られた相手の心理状態の把握の仕方といったものは、恋愛を通じて得られたそれに勝るとも劣らないと感じています。僕は、人生の活動から得られる経験は等価であって、何も恋愛だけが特権的なものではないと考えるのです。だから、僕は小手先の「モテ」のテクニックの習得のためだけに多くの時間やお金を割いているくらいなら、もっと有意義な活動をしたいと思います。僕の中で恋愛のプライオリティが低いのは、そういう理由だと思っています。
ただ、そのような態度は、恋愛からの「逃避」ではないかという非難の声も僕自身の中にあって、そのジレンマに悩まされていることはたしかです。同期の女子が『モテたい理由』を強制的に貸してくれたのは、逃避せずに女性誌でも読んでファッションとか恋愛関係のノウハウにもっと気を遣えというメッセージなのかもしれないなと勝手に推測しています。だとすれば、その目論見は成功したといえます。本書を読んで、とりあえず『FRaU』でも買ってみるかという気になったからです(笑)。人生経験の一つとして、今度の週末は女性誌でも読み込んでみることにしたいと思います。
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